5月、文教大学付属幼稚園の園庭には、色とりどりの鯉のぼりが元気よく泳いでいた。鯉のぼりは園児たちの手作り。自分の作った鯉のぼりが空に泳ぐのを見て、子どもたちはどんなにうれしく、誇らしく感じることだろう。
付属幼稚園で教諭を務める水品佳代子先生は、今年で在勤44年。付属高等学校から短期大学部に進み幼稚園教諭の道を目指した。
「当時の文教大学女子短期大学部児童科は夜間でしたので、昼間は付属幼稚園で助手として働き、夜は学校での授業でした。高等学校へ進むときには幼稚園の先生になると決めていましたので、短大に児童科のある文教を選びました」
助手時代の2年間を加えると46年間。それまでにどれだけの卒園児を見送っただろうか。今も「就職しました」「結婚しました」「子どもができました」と報告に来る卒園児は少なくない。子どもが幼稚園に入園し、「二代続けて担任を持ったこともあります」と笑う。
水品先生は無類の猫好き。年賀状でやりとりをしていた卒園児がある日、「猫が亡くなりました」という先生からの年賀状を受け取り、卒園後初めて幼稚園にやってきた。亡くなった猫・ミッキーは幼稚園で保護した猫だった。
「彼女は、19年前に猫が園に来たときのことをよく覚えていて、ミッキーを彫銀したピンバッチを持ってきてくれたんです。それは彼女の手作りの品で、ミッキーに羽が生えているのは『天使になったから』と説明してくれました」
また、その卒園児がくれる年賀状には必ず猫が描いてあった。そのことについて聞くと、「いつも幼稚園で先生が猫を描いていてくれたから」と答えたと言う。
卒園してさまざまな体験をするが、楽しいことばかりとは限らない。苦しいときに楽しかった幼稚園の時間を思い出し、それが支えになることもあるかもしれない。幼児教育についてさまざまな理論はあるが、「とにかくまずは子どもたちが楽しかったと思える1日にする」というのが、水品先生が目指す幼稚園の在り方だ。
1年後、退職されたらどうされますか? 水品先生に質問してみた。
「遊ぶことが大好きなので、平日に遊びに行きたいですね。長い休みが取れませんでしたので、長期間の旅行も計画してみたいです」
一方で、遊びに熱中していても「この飾り付けいいな、こんど幼稚園で使おう」「この曲、今度の行事に合うな」など、どこかで仕事と結びつけてしまう癖はなおらないだろうと笑う。
「振り返ってみると、楽しかった!のひと言です。子どもたちとの日々は毎日が発見で、新鮮で、おもしろい。私、実は飽き性なんですよ。ここまで続いたのは子どもたちのおかげですね」