
人生はどんな転機が訪れるかわからない。偶然出会った人の一言が、偶然聞いた歌のワンフレーズが、偶然手に取った本の一節が、人生を変えることがある。教員を目指していた関根優貴さんの場合は、一編のドラマ。結婚式をプロデュースする仕事をあつかった連続ドラマを見て、「こんな素敵な仕事があったのか」と驚いた。
文教大学に進学したのは、教員になるという夢を叶えるためだった。教員免許取得を最終目標として勉強する毎日を過ごしていたが、教育実習を間近に控えた3年生の終わり、ドラマでみたウェディングプランナーの仕事が忘れられず、その道に進むことを心に決めた。
「教育実習には行かない、教員免許は取らないと宣言すると、周りからは『ここまで勉強してきたのにもったいない』と止められ、私の選んだ道に賛成してくれる人は誰もいませんでした。でも、気持ちが変わることはなかったですね」
その後、ブライダル企業への就職は叶わず、いったんはフードサービス業界へ就職するも1カ月で退社。ウェディングの専門学校に入学し、授業料と大学の奨学金返済のために昼夜のアルバイトをしながら生計を立てた。
「もったいない、と言われて悔しかったんですよね。それならこの道に進んでよかったねと言われるよう、一人前になって、この道で名を残すぞと。そんな思いでがんばっていました」
この道で名を残す。それを目に見える形で実現したのは、2014年、知識・経験・品格を兼ね備えたブライダルコーディネーターを選出するコンテスト「第10回The Master of Bridal Coordinator」で見事グランプリに輝き、マスターの称号を手にした。コンテストにはブライダル業界から300名余りが参加し、1時間に300問の問題を解く筆記試験や、約200名の立ち会いの中で行われる接客のロールプレイング審査があるなど、かなりの難関だ。
関根さんは6回目の挑戦でグランプリを勝ち取り、大学卒業からは10年が経っていた。専門学校卒業、就職、転職とキャリアを重ね、その間プランナーとして関わった結婚式は1,000件以上に及ぶ。10代から60代までの幅広い年齢層のお客様やレストランやホテル、クルーズウェディングなど様々な場所での結婚式をプロデュースしてきた。
さてコロナ禍以降、結婚式の形も変わりつつあるが、結婚式の魅力、そしてウェディングプランナーの仕事にはどんな魅力があるのだろうか。
「私は準備期間も含めて結婚式と考えているのですが、準備期間はご自身のこれまでの歴史を振り返る時間、結婚式当日はご両親をはじめとした人々に感謝できる時間、そうした人生でも稀な時間がぎゅっとつまっているのが結婚式の魅力です」
アルバムから小さい頃の写真を探したり、招待客リストを作成したりする中で、多くの人の愛に育まれてきたことに気づき、それを素直に感謝できるのが結婚式であると言う。そして新郎新婦のそうした気づきと変化を見守り、夫婦としてスタートする始まりの1日に立ち会えることが、ウェディングプランナーの仕事の魅力であり、喜びだと関根さんは言う。
コンテストで頂点に立った2014年、関根さんは勤めていた会社を退社。どのような形でブライダルの仕事を続けていくか模索していた頃、トランスジェンダーのカップルの結婚式をプロデュースすることになった。法律的な結婚はできないが、ウェディングパーティーという形だけでも残したいというのが新郎新婦の願いであり、新郎がご両親にトランスジェンダーであることをカミングアウトすることから準備は始まった。
「困難なことばかりでしたが、式当日を迎え3人で号泣しました(笑)。そしてこの結婚式をプロデュースしたことが、フリーランスで活動するきっかけをくれたんです」
今までのプロデュースしてきた経験に、結婚、出産という自身の経験値が加わり、さらに視野が広がったと関根さんは言う。これまでの結婚式のあり方にとらわれず、お客様の心に寄り添い、信頼関係で創り上げるウェディングをモットーにフリーランスになってからは今まで以上に家族や自分の時間を大切にしている。そして現在に至るまで、ご紹介で仕事が来るウェディングプランナーとして活動している。
さらに、関根さんには2つの仕事の顔が増えた。
まず一つはウェディングプランナーを育成する仕事である。現在はブライダル企業でのスキルアップトレーニング講師でもあり、短期大学で週1回の授業を持つ先生だ。
「大学時代の夢がつながって、驚いています。自分で言うのもなんですが、ブライダルについて教えるということに関しては、私、先生に向いていると思います(笑)。文教大学で学んだことが役に立っているなと思うことも多く、うれしいですね」
もう一つは、2021年に結婚相談所を立ち上げ、結婚カウンセラーとして活動している。結婚式を挙げるさまざまなカップルと関わってきたが、順風満帆なカップルばかりではない。うまくいく組み合わせ、そうでない組み合わせを数多く見てきた経験が、この仕事に活きていると言う。最終的には、心に残る結婚式を挙げるカップルが一組でも増えるように……そんな思いがこの仕事を始めた動機だ。
大学時代、一限目の授業に遅れないよう「元荒川の土手を全力疾走したことが忘れられない」と笑う関根さん。その時の一途な思いのままに、ブライダルに軸足を置き、生涯現役で仕事をしていきたいと語ってくれた。