
文教大学吹奏楽部は、全国から強豪校が集まる全日本吹奏楽コンクール全国大会の常連校であり、大会出場30回のうち、21回が最優勝の金賞を受賞。その輝く栄光へと導いたのは、吹奏楽部の常任指揮者の佐川聖二先生である。平成元年から指導の任に就き37年、その指導方針は「やさしく、豊かな、厚みのあるサウンドをつくり出す」ことに一貫している。
そのサウンドづくりは、オーケストラに長く在籍していた先生の経歴に由来するものかもしれない。先生は東京藝術大学器楽科から大学院に進学し、大学院在学中の1976年に東京交響楽団に入団。クラリネット奏者として25年間、首席奏者を務めた。吹奏楽が管楽器を主体とした力強い音色が特徴であるのに対し、オーケストラは弦楽器を中心としてより多様で繊細な音色を奏でると言われている。
「たしかに、吹奏楽でオーケストラに近いことをやっているのかもしれません。力強いサウンドでぐいぐい押していくよりも、それぞれの楽器の響きを大切にして、それが全体として調和することを目指しています。それはやかましい音が好きではないという私の好みもありますが(笑)、音楽はストーリーだと思うんですよ。喜んだり、悲しんだり、人を愛したりといったストーリーを伝えるのが奏者。響き合う、やさしい音であってこそ、人の心に届くのではないでしょうか」
一流のプレーヤーは、演奏中に感情を出さない。そういう言われ方があるが、先生は「出した方がいいんじゃないかな」と茶目っ気のある顔で笑う。悲しい音を聞いたら泣いてもよいし、うれしい曲なら踊るように演奏してもよい。そして何より大切なのは、奏者はリラックスして、演奏を楽しんでいることだと言う。緊張をほぐすという目的もあって、「まずは笑え」と笑うことを推奨している。
「学生を笑わすためにいろいろ考えていますよ。テレビで見たギャグを言ったりするのですが、最近の学生はテレビを見ないんだね。ポカンとされちゃって(笑)」
長い指導の中で、学生との関わりも変わった。兄貴分から父親、そして今は「じいじ」と言われるそうだが、そう話す顔は満更でもない。一番の楽しみは3月と8月の合宿で、4泊5日を学生たちと過ごすことだ。また毎年恒例の定期演奏会では、必ず学生が手作りのコサージュを胸につけてくれる。それは37年間、一度も途絶えたことがない学生たちからのプレゼントだと言う。定期演奏会は1978年から続く吹奏楽部の伝統ある会であり、吹奏楽部の日々のレッスンは、実はこの定期演奏会で「文教サウンド」を実現するための技術を磨くことに主眼が置かれている。このことを付け加えておきたい。
1940年から始まり、日本の吹奏楽界にとって、もっとも大きなコンクールとして定着している全日本吹奏楽コンクール。近年は、全国大会のチケットが入手困難になるほど人気がある。金賞21回の受賞は、神奈川大学吹奏楽部に次ぐ2位。