あやなりBP

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2020年8月掲載
𠮷澤 はる江 さん

𠮷澤 はる江 さん

(立正女子大学短期大学部文芸科/1973年卒業)

「言葉」が好きだった自分を、手作り絵本をきっかけに取り戻す

 たくさんの言葉に触れて、感じて、楽しんで、たくさんの感動を味わってほしい。そんな思いがつまった小さな私設図書館が、吉澤はる江さんが開いている絵本文庫「しずく」である。
 よし澤さんは1971年、詩を読んだり、文章を書いたりするのが好きだったことから、編集コースのある立正女子短期大学の文芸科に進学。卒業後は企業の社内報を作る仕事を経験し、結婚を機に退職すると10年間専業主婦として3人の子どもを産み、育てた。子どもと過ごす時間は充実していたものの、閉塞感を感じないわけでもない。そんな折、区立児童館の幼児活動に参加したことが、小さな突破口となった。
 「文集を制作することになって、久しぶりに原稿用紙に向かいました。文章にすることで自分の日々の生活を客観視したり、自己表現できることに気づき、母親でも妻でもない、自分というものを取り戻せたような気がしました」
 やがて、文・絵・製本までをすべて一人で行う「手作り絵本」(子育てセミナー)の講座に参加。講座が修了すると同期の仲間と絵本サークルを作るとともに、図書館などで講座を依頼されるようになった。そして、地域の児童館などで子どもと接する仕事に携わるようになる。仕事先では絵本の読み聞かせをしたり、子どもたちと手作り絵本を作ったり、絵本との関わりも濃くなっていく。仕事のかたわらにはいつも絵本があった。

いつ、何が起きるかわからないからこそ…

 「50歳を過ぎて、自分が本当にやりたいことは何なのか考えるようになりました。自分なりに静かに好きな絵本に関わっていきたい。その答えが地域の居場所となるような絵本専門の図書館だったのですが、図書館司書や学芸員の資格を取ったり、経験を、と思って区立図書館に勤めたり、区立の学童保育に転職したりでなかなか実行に移せませんでした」
 そんななか、転機が訪れたのは2011年3月11日の東日本大震災だ。「いつ、何が起きるかわからない」と、地震が吉澤さんの背中を後押しした。翌月の4月には絵本文庫「しずく」と名付け、少しずつ集めた絵本500冊を自宅1階の改装を機に作った書棚に収め門戸を開いた。言葉と絵に出会い、たくさんの気づきをもらえることが絵本の魅力。「そして何より短い時間で読めるでしょ。この世にいない生き物のお話だったり、架空の世界のお話だったり、絵本の世界は無限ですが、行ってもすぐに戻って来ることができます」と吉澤さんは笑う。

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    • 𠮷澤 はる江 さん
    • よしざわ はるえ
    • 絵本文庫「しずく」主宰、民生・児童委員
      立正女子大学短期大学部文芸科 1973年卒業
  • 𠮷澤 はる江 さん