
北越谷駅から元荒川沿いを歩いて行くと、大学のキャンパスが見えてくる。「この立地が何より好きでした」と佐藤先生は懐かしむ。キャンパスの手前にある橋を渡ると、聖域に入るというような気持ちに切り替わったのだそうです。
立正女子大学短期大学部で講師だった2年間も入れると、文教大学には44年間通い、校名変更や共学化などを経験した。「ほかの学校へ移りたいという気持ちすら抱かなかったのは、仕事と出産・子育てを両立できた文教だったからこそ。先生同士も協力し合い、支え合うあたたかい職場で、それは辞めるまで変わりませんでした」
家庭教育、生涯学習、ジェンダーなど、佐藤先生の学問領域を突き詰めていくと、「人間」にたどり着く。在任中に自主研究グループ「保育問題研究会」や「心理劇研究会」を立ち上げ、「よりよい人間関係を築くためにはどうしたらよいか」をテーマに実践。それらの活動が前身となり、また恩師の勧めもあって、その後「人間関係学会」の創設へとつながった。そこで会長を務めたこともあった。今は身を引いているが、「人間関係・HRST研究会」を立ち上げ、教え子の杉本太平さんが会長、自身は顧問として関わり続けている。文献を読むなど知識を磨くだけでなく、心理劇で役の気持ちを考えるワークショップなど、実践的な学びにも力を入れている。
一方で、一生徒として学んでいるのが英会話だ。10年ほど前から通い、イギリスに住む孫が帰国したときには「おばあちゃん英語うまくなったね」とほめてもらえるようになった。ただ、英語が身につくことよりも、先生たちやクラスメートとの楽しい時間を過ごせることが、継続できている理由だという。「とてもよい先生で、一人ひとりの生徒の特徴を活かしてくれる。学ぶ意欲を損なわないように指導してくださる姿勢は、私が学生に接する時に心がけていたことに通じます」
「人は人から学び、育てられるもの」と佐藤先生は繰り返す。「文教での先生や学生たち、そして事務局の方々との交流が、現在の私をつくってくれたと感じています」。退職後も、教え子たちが「佐藤先生を囲む会」を毎年開催。福岡や水戸の偕楽園まで足を延ばすこともあった。「教員時代から、学生がお膳立てしてくれることに乗って楽しくやってきましたが(笑)、それが退職後も続いています」。文教時代の44年間、そして退職後から現在までを振り返り、「私と関わってくれた人たちに、いくら感謝してもしきれません」と述べる。
傘寿を迎えてもなお、活動的な毎日を送る佐藤先生。卒業生、そして今現役の学生たちには、「気づかないかもしれませんが、今、この時にしかできないことってあるんです。だから後悔しないよう、今を精一杯生きてほしいと思います」とエールを送る。