あやなりBP

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2022年7月掲載
豊口 和士 先生

豊口 和士 先生

(文教大学文学部/2008年~在職中)

書は余白の美を追究するもの

 文教大学旗の台キャンパスの理事長室には、文教大学学園の建学の精神である「人間愛」の書が掲げられている。この書の作者が文教大学文学部教授の豊口和士先生だ。書道と書写・書道教育を研究テーマとして学生を指導するとともに、書家としても活躍している。
 「書で大切なのは余白。紙の白、墨の黒によるシンプルな世界で、どう余白を描き出すかに注力します。同時に、作品それ自体とその余白が空間にどう働き、どう存在するかを考えています。理事長室の書は、部屋の広さや作品を含めた雰囲気も考慮して制作しました」

自分にしかできない表現を求めて

 豊口先生は書道の会や団体には属さず、大学院修了後はニューヨークで創作活動を行うなど、独自の表現の道を歩んできた。
 豊口先生の幼少期、昭和50年代の子どもの習い事には、ピアノやそろばんと並んで書道(習字)があった。先生の書の世界への入口もそうした習い事の一つからであったが、「豊口君は会や団体には属さずに活動するべきだ」と忠言してくれた恩師や、書に限らず自由に表現活動を展開する人たちとの出会いもあり、書とは何か、自分は書を通じて何をしたいのかを考えるようになったという。
 「一般的な書道教室などで書道を学ぶという場合、師匠の書、書風を模して書くことで、技能を習得し習熟していくことが多いように思います。つまり、手本通りに書くことが目的になってしまいます。しかし、私は『自分の表現』を確立したいと決意し、ゼロから自分の表現を探し続け、書いた文字を見れば、豊口の字だとわかると言ってもらえるようになりました」
 この表現をできるのは自分以外にいない。いわゆる「上手い」「下手」といった評価や価値観を超えて、そこを目指すことが自分の書の道だと豊口先生は語る。

書を通して豊かな世界を広げる

 豊口先生は表現者であるとともに、大学では学生たちに書道を教える先生という一面ももつ。どんな授業が行われているのかというと、上手に美しく書くための技能を習得することにとどまらず、書を通して何を表現したいのかを常に学生たちに問い、指導する。
 「表現するためには、ものを見る力を養うことがまず大切なんですね。ものの良し悪しを見分けたり、美しいものや好きなものを見つけたり。それは教えられるものではなくて、ものの見方の例を示すことはできるけれど、やはり自分でつかんでいくもの。物事の本質を見抜く力、自身の考えや好みを大切にし貫く力が身に付けば、それはこれからの人生の財産になります」
 書を学ぶことを通して、美への目が開かれ、豊かな感受性を自ら育み、それぞれに世界を広げていってくれることを願い、学生たちが待つ教壇へと向かう。

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    • 豊口 和士 先生
    • とよぐち かずお
    • 文教大学文学部教授、書家
  • 豊口 和士 先生