
「将来はイルカか馬に関わる仕事に就きたい」という子どもの頃の夢を実現させ、横浜・八景島シーパラダイスで獣医師として、また館長として働く大津さん。自身が就職を考える頃はまだ水族館に獣医師がいることは当たり前ではなかった。そのため需要もなく、大津さんはイルカがいる日本中の水族館に手紙を書いて就職先を探したという。
もちろん横浜・八景島シーパラダイスに就職してからも奮闘の日々が続く。獣医師というより、獣医師免許を持つ飼育員という立場だったため、生きものの採血ひとつとっても先輩飼育員の許可なくしてはできなかった。しかし愛するイルカの治療で、大津さんの立場がグンと変わることとなる。
「それまでは、具合が悪くなった生きものに対して医学的な手法を用いて治療をすることはあまりありませんでした。治療プールという名の所はありましたが、そこに入ったら助かる見込みがないことを飼育員も分かっており、『治療プールに入れるのは嫌です』と泣いて訴えるほどでした。しかし病気のイルカを回復させて群れに戻すことを2頭続けてできた時、獣医師の力を認めてもらえたように思います。それからは各動物の健康状態に関してちゃんと報告が上がってくるようになりました」
時を経て、一獣医師という立場から水族館全体の運営を管理する立場へと職域が広がった。現在は、獣医師として毎日すべての生物を自分の目でチェックし、担当飼育員からの報告を聞いて検査や治療を行いながら、館長として水族館の改革を進めている。
水族館には、①種の保存 ②調査・研究 ③環境教育 ④レクリエーションの場の提供 の4つの使命があるとされている。
「横浜・八景島シーパラダイスは遊興の場というイメージが強く、エンターテインメントの部分ばかりがフィーチャーされる傾向にあります。もちろんそれも水族館の大切な一つの側面ではあるのですが、この強みを活かしながら、水族館だからできることをきちんと果たしていきたいと考えています。楽しいエンターテインメントで人を集め(④)、海の生物にふれる機会を提供することで来館者の興味を喚起して環境教育につなげる(③)。そして裏方では、種の存続のために繁殖を計画的に行い(①)、飼育時のさまざまなデータを集めるなど調査・研究(②)を充実させて、他館とも交流し、合同でアクションできるようにしたい」
そう語る大津さんには、4つの使命すべてを実践してパワーアップした水族館の未来の姿が明確に見えているようだ。
「海や川、水辺に生きるものたちへの疑問が湧いた時に『横浜・八景島シーパラダイスに行けばヒントや答えがもらえる』と思ってもらえる、『楽しみ+α』のある水族館にしていきたいですね」